2017年1月17日火曜日

3. 卒業!「朝の泣き別れ」

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 1988年5月に世田谷に引っ越し、申請していた保育園への入園が認められました。
 働く親にとって、子どもを一日預かってくれる保育園は本当にありがたい存在です。
 しかし、子どもにとってはどうなのか?
 生まれてからずっと、大半の時間を母親である私との2人の生活を送ってきたかおる。
 3歳を過ぎてからの中途入園は、かおるにとって思いもしなかった生活の変化です。
 この変化にかおるはうまく対応できるだろうか。
 次の文章は、私が娘を保育園に預け始めてから7ヵ月ほどたった頃に、入園後の娘の変化について書いたものです。


《1989年2月》

 

★泣き別れの日々


 かおるは昨年の7月から祖師谷保育園に通い始めました。(3歳2ヵ月)
 社会運動家として有名な賀川豊彦が創立した伝統ある保育園で、現在の園長さんは敷地内の教会の牧師さん。
 最初の1か月は、かおるには苦痛であったようです。昼寝のタイミングが合わず、皆が寝静まってしまったところで、一人起きているのが何よりつらかったそうです。始めは歌を歌っていたようですが、他の子が起きてしまうからと、止められてしまったといいます。
 「どうして保育園に行かなくちゃいけないの~」
 泣き出さんばかりのかおるを自転車に乗せて、「今にきっと楽しくなるよ」「保育園に行ってよかったって思うようになるからね」と言い聞かせながら保育園に送り届け、保母さんに抱えられて泣きわめくかおるを振り切るようにして帰る日が続きました。


★2週間の夏休み


 8月に入って2週間の夏休みを取りました。保母さんたちが交代で休みを取るので、できることなら休んでほしいと園から言われている期間。「休ませると後が大変でね」と他のお母さん方は言います。しかし、かおるには少し気分転換が必要ではないかと、仕事を調整して休ませることにしました。
 そして休み明け。どうなるかと思っていましたが、かおるは全く泣かなくなっていました。保母さんも私も拍子抜けという感じでした。休み中、私が仕事(小さな映画制作会社をやっていた夫の手伝いで、シナリオ書きなどをしていました)や耕平(7ヵ月)の世話で十分遊んでやれなかったので、かおるは、バラエティに富んだ、そして1日フルに遊べる保育園の楽しさに気づいたのではないでしょうか。
 昼寝のリズムがだんだん合ってきたのも良かったのかもしれません。


★そしてその後・・・


 9月になると、迎えに行ってもすぐ飛んで来なくなりました。「もう少し遊んでいってもいい?」
 10月、「もう少し遅くお迎えに来てもいいよ。」
 11月のある日、迎えに行くと、仲良しのリサちゃんとランドセルを背負っていったり来たりしているところでした。。そして不服そうな声で言いました。
 「もう少し遅くきてくれればいいのに。今学校ごっこやっていたのよ!」「・・・・・」

 そしてそれからさらに3か月が過ぎた今のかおる。
 「今日はタテワリなんだよ。お買いものごっこやるんだって」などと、毎日何をやるか楽しみにして保育園に行っています。
 「タテワリ」というのは、年齢の異なる子どもたちをまぜてクラスを作り活動する縦割り活動のことで、かおるの通う祖師谷保育園は、自主的な行動力と他を助ける心を育てるという方針から縦割り活動が多いのです。劇遊びや楽器遊び、すもう大会やかるた大会をやったり、散歩にも行きます。年長の子が運転手や車掌役をつとめる“乳母車バス”に、小さい子が切符を買ってお客さんになる乗り物ごっこもなかなか楽しいようです。
 そうして遊ぶので、年長組の子も年少組の子もお互いに顔や名前を知っており、かおるも帰り際に年長さんから「かおるちゃんバイバイ」などと声をかけられうれしそうです。

 また園には、スカート、カバン類、風呂敷、エプロン、組み立てブロックなど、種類ごとに分類されて入った引き出しがあって、おやつの後の時間、子どもたちはそこから思い思いのものを取り出して遊びます。迎えに行くといつも、風呂敷をなびかせたアンパンマンやら仮面ライダー、何人もの白雪姫たちが部屋の中を右往左往しています。かおるもよく長いスカートを引きずって歩いています。

 そう、かおるはもう完全に、朝の泣き別れは卒業したのです。


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 朝の泣き別れ、通い初めにはどの子にも多かれ少なくともあると言う。長時間泣いている子、すぐ泣きやんでしまう子、泣き別れが長く続く子、すぐ泣かなくなってしまう子などさまざまだそうだ。これは、子どもの年齢や家庭での生活の仕方などいろいろなことが関係しているようです。
 子どもの泣き別れは、安全なところから離されたということからおこる防衛本能だと考えられています。保育園では朝の儀式と呼んでいました。あって当たり前のことで、むしろ泣かない子の方が心配だそうです。泣いているのは「お母さん好きだよ~、おうちの方がいいよ~」と言われているのだと考えればよいというのが、主任保母さんの言。
 ん? じゃあ、泣かなくなったということは・・・・・

 今から20年数年前当時、保育園に子どもを預けるということを、親の義務を怠っていると批判する人々が少なくありませんでした。(今でもいるかもしれない) しかし、家にいたのでは、これだけ多様な行動プログラムや。異年齢(0~6才)の友達、障がいのある子(園には常時何人かいました)、保育士さんや給食のおばさんたちといったいろいろな人間のいる社会生活を経験させてやることはできません。
 かおるは保育園生活で、適度に親離れをし、生活習慣においても、友達づきあいにも急速な成長を見せました。そして何より、そこでの生活を楽しんでいました。これはもう何をか言わんやです。








 

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